日本の種、インドの畑 — ICHIGOの仕組み

東京でいちごを食べたことがある人なら、まず香りを覚えているはずだ。デパ地下のいちご箱を開けた瞬間、十メートル先まで香り立つ。あれは奇抜な品種の手品ではない。何を播き、どこで育て、いつ摘み、どう詰めるか — その連鎖の選択を、インドのいちご市場はほとんど問われてこなかった。誰かが問えば、答えは出る。ICHIGOはその「問い」の答えだ。
箱の中身は何か
ICHIGOは日本のいちご種子を、インドの畑で、日本の農学指導の下で育てたものだ。
品種は SAKURA と HARUHI、どちらも東京の株式会社ミヨシが育成したBerry Pop F1シリーズの一代交配品種。ミヨシは100年以上、園芸植物・食用植物の育種を続けている老舗で、Berry Popシリーズは日本のパティシエが評価する特性 — 均一な熟度、ナイフが入る硬さ、糖だけでなく酸も持つ糖酸バランス、室温で立ち上がる香り — を狙って選抜された系統だ。
栽培はマハーラーシュトラ州、現地パートナーの JIV が運営する圃場で、日本の農学博士の技術指導下で行われる。種子はミヨシとのロイヤリティ契約のもと毎シーズン輸入される(箱に「Produced by JIV」と入っているのはそのため)。
その箱自体、見ればすぐ分かるようになる:マットな黒い段ボール、いちご型の一個窓、表に金で「ICHIGO」とカナで「イチゴ」。中は一段詰め、ガク上向き、緩衝材。
なぜわざわざ日本品種を持ち込むのか
インドのいちご市場は3品種で寡占されている:Sweet Charlie、Winter Dawn、Camarosa — どれもアメリカ東岸向けに育種され、2000年以降にインドで採用された。気候に強く、多収。「働く品種」だ。
ただし、これらはデザートカウンターの棚持ち、ガクの保持、日本のパティシエ料理が依存する香りを狙って育種されたわけではない。プネの圃場でピーク収穫したSweet Charlieは美味い。だが14時間の陸送を経てムンバイのパティスリーに着いたSweet Charlieは、ガクも硬さも香りも失っている。
SAKURAとHARUHIは別の課題に向けて育種された品種だ。ICHIGOは「日本で完成したいちごを輸入する」ではなく「その育種成果をインドの生産系に持ち込む」実験である。輸入は高価で遅く、インドの栽培窓を考えれば理屈に合わない。
品種の上に乗せる3つの運用規律
品種選定は必要条件であって十分条件ではない。種子に付いてくる3つの圃場ディシプリン:
1. 収穫タイミング
顧客の元に届いたいちごの味を決める最大の単一要因は、株から離れたときの色だ。インドの慣行は重量最大化のため遅め — 完全赤・やや軟 — に収穫する。ICHIGOは1〜2日早く、より深い赤だが硬さの残った段階で収穫する。これだけでBrixが約1.5ポイント上がる — 果実が自身の糖を呼吸で消費し始める前に収穫しているからだ。

ピッカー(収穫者)の訓練を「収穫済みクレート」ではなく「株上の状態」で行うのは、摘んでしまうと色情報が曖昧になるからだ。ピッカーは上の写真の白い肩のあるいちごは「1日早すぎ」、隣の深赤・肩が固い兄弟が「ICHIGO目標」と覚える。
2. 2時間以内の予冷
22°Cのいちごは、4時間で目に見えて糖を失うほど呼吸が速い。インドの圃場標準は、温いままトラックで市場小屋まで運び、夜気で冷やすに任せる。ICHIGOの規律は摘んだ全パンネットが2時間以内に2〜4°Cの予冷ドックに到達すること。予冷ドックは農家クラスター内に置く。遠方倉庫ではない。
3. 窓付き箱の一段詰め
2段重ねは、その日は問題なく見える。しかしムンバイのシェフの手に渡る頃、下段は打撲している。ICHIGOはガク上向きの一段詰めを、ブランドの黒い窓付き箱で配送する。窓は装飾ではない — 買い手が開封前に中身を検品できる。B2Bシェフが「見たから中入れて」と言える状態と、受領時検品で返品される状態の違いはここに出る。

受取り時にできる試験
屈折計は不要。受け取り時に:
- 開ける前に箱を嗅ぐ。ICHIGO箱は封を切って10秒以内に室温で香り立つ。インドの一般「プレミアム」箱はそうならない
- 1粒を縦に切る。インドの主力品種は中心が薄い色の中空になりがちで、上の写真の白っぽい中央領域がそれだ。SAKURAとHARUHIは中心まで均一な深紅で埋まる。この均一性が、パティシエが盛付け用にきれいなスライスを切れる根拠になる
- 一番見た目の悪い粒を食べる(一番良い粒ではない)。それが美味ければ箱は正しく扱われている。それが平板な味なら、どこかで温いまま放置された。大半のシェフがやらない唯一のテストで、丁寧な供給者とマーケティング上の主張を分ける線がここに出る
ICHIGOではないもの
ICHIGOは日本からの空輸ではない。資源も時間も無駄、しかも適切な高度帯のインド生産者が、正しい種と正しい扱いがあれば素晴らしい果実を作れる現実を考えれば、空輸は不要だ。ICHIGOは「日本品種+日本式規律 × インド生産」のペアリング実験である。
また、6粒800円の単一品種ギフトカウンター高級品でもない。SAKURAとHARUHIはキッチン用途にポジショニングされている — パティシエ、ホテルF&B、デザート中心レストランが毎週リオーダーする経済合理性が成り立つ価格で。東京式のギフト価格は別市場、これはそれではない。
次の話
この仕事は数シーズン目に入っている。2品種はマハーラーシュトラ州の特定圃場に落ち着きつつあり、技術指導のデータが翌シーズンの種子発注に還流し、買い手側もムンバイ・プネから外周都市へ広がり始めている。本Journalの次の記事では、コールドチェーン(記事2)、農場側の物語(記事3)、シェフ側の受容(記事4・7)と続く。
それまでに、1箱注文してほしい。開ける前に嗅いで、一番見た目の悪い粒を食べて、何が見えたか教えてほしい。
ICHIGOは株式会社エムスクエアラボのインド登録商標です。インドではJIVがミヨシ社のBerry Pop F1品種(SAKURA・HARUHI)のライセンスのもと栽培しています。インド現地連絡先:Ishita Shroff +91 98314 79900、Mitesh Furia +91 98207 73767。
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